となりのツキノワグマ 宮崎学 新樹社
概要
長野県の中央アルプスを拠点に長年にわたり動物写真を撮り続け、特に哺乳類及び猛禽類の撮影では独自の分野を開拓した写真家が、ツキノワグマを追ったエッセイ写真集です。
目次
- 20年後のけもの道
- クマのグルメガイド
- 森の改変者
- 忍び寄るクマたち
- 檻
- クマは何頭いるのか
感想
僕は地元石川県に住んでいた2000年代ころ、森林保護のボランティア団体に所属していて、月に何度も森に入って植林や雑草狩り作業をしている中で、ウサギ、カモシカ、ニホンザルなど、何度も野生動物に出くわしたことがありましたが、ツキノワグマには結局一度も出くわすことはありませんでした(もちろん、出くわしたら大変なのでクマ鈴をつけて気を付けていたからというのもありましたが)。
また、石川県の白山麓には野生動物の観察小屋がいくつもあって望遠鏡や双眼鏡を使って山の斜面を通る野生動物たちを観察できたりすることができて、ツキノワグマが見られることもあるそうなのですが、僕自身はついにお目にかかることはありませんでした。
それくらいツキノワグマはなかなか見ることができない幻に近い存在でした。
それが2004年だったか、2006年だったか記憶がはっきりしないのですが、全国的にクマが大量出没した年があって、石川県でも町中にまで出没するなどして何百頭というクマが殺処分されて、団体に専門家を招いたときに、出没したクマを殺すべきか、山に帰すべきかで大きな議論になったことを覚えています。
ニュースで見たのですが、2020年には加賀市のショッピングモールにクマが侵入して射殺されるという事件もあったりして、ツキノワグマはもはや幻の動物とは言えず、日本の生態系がかなり変化しているように思えます。
足が短いイノシシは雪深い石川県のような豪雪地帯では冬を越せないといわれていたのですが、地球温暖化の影響なのか、近年は積雪量が減って、北陸地方でも定着しているとも聞きます。
この本ではそんな日本の生態系の頂点であるツキノワグマの生態を追ったエッセイ写真集です。
けもの道に自動カメラを設置して長年撮影した膨大な量のツキノワグマの写真が収録されています。
クマをおびき寄せるためにどんなエサがよいか研究したり、クマの性別を見分けるために立たせて性器が写るように工夫したりとユニークで、動物写真家の創意工夫の努力がうかがえる本です。
野生動物たちとどうすれば共存していけるのか?この問いに長年野生動物を追い続けてきた著者の自然に対するまなざしを参考にしたいです。